お正月は、丁度二十四節気の冬至・末候「雪下出麦」にあたります。
雪下出麦とは、雪が深々と降り積もるなか、雪の下で力強く芽を伸ばす麦や冬枯れの樹木の枝先では春に向けて芽吹きの準備が行われ、先人たちが生命力溢れる植物の姿に想いを馳せる時期のことです。
この時期のご馳走といえば、忘れてはいけないのが「おせち料理」です。
おせち料理の語源は「御節句(おせちく)」であり、人日・上巳・端午・七夕・重陽の五節句料理に神様へのお供え物として用意されていた料理の総称でした。
現在ではお正月に食べられる節句料理を「おせち料理」と呼ぶようになり、年神様にお供えした後、そのお下がりを家族全員で仲良く食べるのがしきたりとなっています。
また、おせち料理は、神様にお供えする目的で作られているため、神様とヒトを繋ぐ大切な役割を担っている重箱に隙間無くギュウギュウに詰め込むのが常識です。
現在の日本は、世界中の国々から様々な食品を購入できるため、とても恵まれた食生活を送ることができていますが、その反面、食べ物の旬が不明瞭になっており、食事の楽しみも薄れてきています。
また、最近ではデパートや百貨店、インターネットなどで和洋折衷のおせち料理を注文することができるため、忙しい年の暮れに合間を縫っておせち料理を作る母の姿を見かけることが少なくなってきています。
おせち料理には、神様への日頃の感謝を捧げることを目的としているので、祝い肴3種・口取り・酢の物・焼き物・煮物は必ず用意する必要があります。
なかでも祝い肴3種は、関東地方と関西地方では内容が大きく異なるため、せめて祝い肴3種はご自身の手で作ってみてはいかがでしょうか。
おせち料理、一つ一つに込められた意味
ところで、重箱にギュウギュウに詰め込まれたおせち料理には、1つ1つ意味があることをご存知ですか。
日本人は古くから象徴文化や言霊信仰が根付いており、縁起の良い食べ物を重箱に詰め込んで神様へ捧げていました。
この風習は、食事をするのもままならなかった時代を生き抜いた先人たちの切実な思いと日本人が持つ万物との繋がりを大切に思う優しい気持ちによって生み出されたものであり、目に見えない小さなものにも生命の尊さや繋がりを無意識に感じ取り、言霊信仰や縁起物、呪物などを生み出したと考えられています。
では、ここでおせち料理の縁起物についてご紹介して行きたいと思います。
【おせち料理の縁起物】
食材 | 意味 |
---|---|
海老 | 腰が曲がるまで長生きしようという意味を持つ。長寿のシンボル。 |
数の子 | 子だくさんという意味を持つ。子孫繁栄のシンボル。 |
栗きんとん | 漢字で書くと「栗金団」となり、金運を招く。繁盛や繁栄のシンボル。 |
黒豆 | 豆は健康と丈夫を象徴であり、まめに働くなどの語呂合わせから縁起物とされている。 |
紅白かまぼこ | かまぼこは日の出のシンボル。紅にはお祝いや慶び、白には神聖という意味が込められている。 |
伊達巻 | 別名「カステラ蒲鉾」と言い、古来より重要な文書や絵を巻物にして持ち運んでいたため、学問や習い事の成就を表しています。 |
錦玉子 | 黄身と白身を金と銀に喩えており、2色の語呂合わせで「錦」と表す。おめでたく豪華な食べ物。 |
鯛 | 祝い事の定番メニュー。めでたいの語呂合わせが由来となっている。 |
鰤の焼き物 | 出世魚である鰤は、縁起物の1つ。出世祈願。 |
昆布巻き | 「よろこぶ」の語呂合わせ。「よろ昆布」という意味。 |
コトブシ | 別名「フクダメ」と言い、五節句の神饌。福が溜まるという意味を持つ。 |
かちぐり | 「勝つ」という意味から来ている縁起物の1つ。 |
八ッ頭 | 小芋がたくさん実ることから子孫繁栄のシンボル。また、末広がりという意味も込められている。 |
里芋 | 子宝のシンボル。八ッ頭と同じ意味を持つため、どちらか一方をおせち料理として用いる。 |
レンコン | 孔がたくさん空いていることから、先見性のある1年になるようにという願いが込められている。また、種子が多い食べ物であるため、多産の意味も含まれている。 |
慈姑(くわい) | 大きな芽が出ることから出世の象徴となっている。 |
金平牛蒡 | 怪力無双の豪傑・坂田金平に由来する。丈夫や強さを象徴する食べ物。 |
お多福豆 | 福が多からんことを祈願している。 |
紅白なます | 御祝いの水引を象ったもの。平安や平和を象徴する縁起物。 |
橙 | 「代々」に通ずる語呂合わせ。代々子孫が繁栄するようにという願いが込められている。 |
にょろぎ | 黒豆と共に盛り付けられる植物の根を紫蘇酢で赤く染めたもの。 |
干し柿 | 長寿祈願。干し柿のシワを老人の肌に喩えている。また、柿の木が長寿であることから来ているとも言われている。 |
梅干し | 干し柿と同様の意味。 |
なまこ | 形状が俵に酷似していることから、俵子とも呼ばれている。豊作祈願。 |
田作り | ごまめ(五万米)を使った縁起物。豊作祈願。 |
菊花蕪 | 冬に旬を迎える蕪を縁起の良い菊のかたちに象った料理。ご馳走の箸休めにピッタリ。 |
小肌粟漬 | 出世魚である小肌をクチナシで染めた粟と共に召し上がる。五穀豊穣のシンボル。 |
するめ | 寿留女(するめ)は、結納の品として用いられる縁起物。するめ・昆布・新巻鮭は幸せのこと祝辞を表す。 |
他にも、地域によっておせち料理に使用される縁起物は、ごまんとございますので、お住いの地域の縁起物についてこの機会に調べてみてはいかがでしょうか。
今回はおせち料理についてご説明させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか。
おせち料理は、1段目に「祝い肴・口取り」、2段目に「酢の物・焼き物」、3段目に「煮物」を詰めるのが一般的となっています。
祝い肴は、関東地方では「数の子・黒豆・田作り」なのに対し、関西地方では「数の子・黒豆・たたき牛蒡」となっています。
おせち料理には、女性に正月三が日休んでもらうためという意味の他に「神様をお迎えした新年に台所を騒がせてはならない」や「火の神様である荒神様を怒らせてはならない」という平安時代から続く風習が今もなお根付いているため、濃いめに味付けをし、日持ちさせることができるようになっています。
おせち料理は、日本酒との相性が抜群の料理ですので、「睦月」という名にちなみ、お正月は家族や親戚とおせち料理を囲んで、仲睦まじく過ごしてみてはいかがでしょうか。