十分に発酵させた醪を酒袋に入れ、上槽工程を行うと、日本酒の原液と固形物の酒粕に分離することが出来ます。
搾り立ての新鮮な日本酒は野性的な香りと味わいを持っており、蔵元によっては、このまま瓶に詰めて季節限定酒として販売することもありますが、杜氏や蔵子の目指す品質の日本酒とは程遠いため、さらにここから「おり引き」「濾過」「火入れ」「貯蔵」を行う必要があります。
では、日本酒の品質を調節するための第一段階であるおり引きから順にどのような作業なのかを解説していきたいと思います。
日本酒造りの「おり引き」から「貯蔵」までの工程をまとめてご紹介
おり引きとは?
上槽を終えたばかりの日本酒にはデンプンや酵母、タンパク質に多糖類などが豊富に含まれているため白濁した液体となっています。
この濁った液体をタンクで10日間ほど寝かせ、浮遊している不純物を沈殿させる「滓引き(おりひき)」を行う必要があります。沈殿した滓(かす)のほとんどが、極めて細かい未消化のお米の欠片や酵母、麹菌の菌糸になります。
これらの不純物を全て沈殿させ、液体の上層部が澄んだのを確認したら、タンクの側面に備え付けられている2つの呑穴のうちの上部にある「上呑」からゆっくりと静かに上澄み部分を汲み取ります。
呑穴の下部に備え付けられているものを「下呑」と言い、滓を混ぜた日本酒を製造したい場合に用いられ、「おりがらみ」と呼ばれます。
濾過とは?
10日間かけてじっくりと滓引きを行い、上澄みを汲み取っても微細な不純物が含有されている可能性があるため、次なる工程「濾過(ろか)」を行います。
高い吸着性を有する炭素質として知られる活性炭が使用されたフィルターを用いて、日本酒に含まれている微細な不純物を綺麗に取り除きます。
しかし、活性炭では、日本酒の旨味成分までも吸着してしまうため、現在ではマイクロフィルターを使用したり、活性炭が使用されていない濾過機を使用した素濾過と呼ばれる方法で不純物を取り除くこともあります。
また、日本酒の旨味を最大限引き出すために、濾過を一切行わない無濾過の日本酒もありますが、現在市場に出回っている無濾過と表示されたほとんどの日本酒は素濾過を行っている場合が多いと言われています。
火入れとは?
濾過工程を終えた日本酒は「火入れ」を行います。
濾過工程を経た日本酒ですが、液体の中には酵素が含まれているため、酵素の破壊及び殺菌を行うために、日本酒を60度から65度の低温で加熱する火入れを行う必要があります。
火入れといっても直接火にかけるわけではなく、濾過作業が終了し、常温の日本酒の入っているタンクに蛇管と呼ばれる螺旋状の管を伝って、60度から65度のお湯が入っているタンクで30分かけて温められながら、別のタンクへ移し、急速に冷却する方法です。
また、蛇管以外にもパネルヒーターを用いた火入れもありますので、酒蔵によって様々な方法で火入れを行っています。
日本では既に平安時代の頃から火入れが行われており、17世紀になると全国各地の酒蔵で火入れの技術が行われるようになったと言われています。
世界では19世紀後期にフランスの科学者であるルイ・パスツール氏によって発見されており、パスツール氏が発見する遥か昔から火入れを行っていた当時の日本人は優れた知識と技術力を持っていたことが分かります。
通常火入れの工程は2度行われ、1度目は濾過後、2度目は瓶詰めを行う際となります。
今回は濾過後の火入れの役割についてご説明します。
濾過後の火入れには日本酒の香りや味わいを劣化させる火落ち菌は、コウジカビを生成するメバロン酸を糧に増殖する乳酸菌の1種です。
日本酒に火落ち菌が含まれると、酸化を促進させ、白濁や独特の臭気を発生させます。
この火落ち菌は日本酒に含有されている成分を好むため、ワインなどの酒類には存在しません。
貯蔵とは?
1度目の火入れを行った日本酒は出荷される今秋まで貯蔵タンクで大切に貯蔵されます。
日本酒の銘柄にもよりますが、一般的な日本酒の場合、15度から20度で管理され、吟醸酒や生酒などの日本酒の場合、2度から氷点下という冷凍管理されます。
日本酒などの酒類全般には、炭化水素の水素原子を水酸基に置き換えた形状の化合物であるアルコールが含まれているので、貯蔵する日本酒のアルコール度数以上の低温で保存しなければ凍結することが出来ません。今秋まで貯蔵する際は、酒質が変化しないように低温でじっくり熟成させる必要があるのです。
貯蔵された日本酒は出荷されるまでの間に熟成され、フレッシュでワイルドな香りや味わいを持つ清酒から円やかで安らかな落ち着きのある風味の清酒へと生まれ変わります。
しかし、過度な熟成を行ってしまうと、変色し、老香(ひねか)と呼ばれる臭気や雑味を含む劣悪な日本酒が誕生してしまうため、貯蔵中も蔵子たちはこまめに温度管理を行う必要があります。
今回は日本酒の貯蔵までの工程をご紹介させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか。
貯蔵された日本酒は、夏になると品質チェックのために「初呑み切り」を行います。これは酒蔵に古くから伝わる品質管理方法であり、冷房などの機械が無い時代に行われていた風習の1つです。現在でも多くの酒蔵で初呑み切りが行われていると言います。