日本酒の造り方|⑤酒母造り

日本酒造りの工程「酒母造り」について

麹を生成する「製麹」でようやく3分の1の日本酒造りが完了したことになります。
それでは、再び蒸米に戻り、酒蔵に古くから伝わる諺「一麹 二? 三造り」の二?にあたる「酒母造り」をご紹介したいと思います。

酒母とは、「?(もと)」と呼ばれており、麹がデンプンの糖化を促進させるものならば、酒母は発酵を司り、酵母を多量に培養し、発酵の先陣を切る役割となっています。

酒母の定義は「日本酒の醸造に必要不可欠な蒸米と麹、水を使用し、優良な酵母を培養したもの」とあり、要約すると「アルコール発酵を行う際に欠かすことの出来ない酵母を多量に増殖させたもの」となります。そのため、酒母造りによって如何に豊富な酵母を培養することが出来るのかによって職人の腕が明らかとなります。

では、酒母造りの工程を分かりやすくご紹介したいと思います。

酒の出来上がりを左右する酒母造り

酒母造りとは?

では、酒母造りの工程をご紹介したいと思います。

酒母を造り始める前に「もと桶」という酒母専用タンクもしくは桶を用意します。まず、糖化を司る麹と水を投入し、混ぜ合わせます。そこへ日本酒造りに必要不可欠な少量の酵母と醸造用の乳酸を加え、最後に蒸米を投入したら酒母造りの仕込みが完了します。
そして、汲みかけを行いながら酵母を培養し、酒母が造られるのです。

汲みかけとは、下部に小さな穴が無数に空いた筒状の装置「汲みかけ器」をもと桶に入れ、筒の内部に浸み出した酵素液をもと桶に上からかけます。すると酵素の働きを促し、進めることが出来ます。

こうした工程を経て、ようやく完成した酒母をおよそ2週間から1か月間眠らせ、次の工程「仕込み」へ移ることが出来るのです。

醸造用の乳酸を酒母造りに使用する所以は、空気中を漂う雑菌や野生酵母を死滅させるためです。酒母造りの最中は、常にもと桶の蓋を開放しているため、様々な菌類や酵母が入り込んでしまいます。それらを駆逐するためには、硝酸還元菌や乳酸菌を加えて生成される乳酸の力が必要になるのです。

酒母造りの種類

酒母造りには酵母が使用されるのですが、酵母は雑菌や野生酵母に弱いが、酸性には強い性質を有しています。そのため、もと桶を開け放した状態で製造される酒母は常に危険と隣り合わせとなります。
それを防ぐために強力な酸を持つ乳酸を加え、空気中を漂う雑菌や野生酵母から酵母を守り、麹によって糖化されたデンプンの糖分を分解し、繁殖を行います。

酒母が乳酸を得る方法は「生?」「速醸?」の2種類存在します。
1つが古くから伝わる手法で製造される生?という酒母、もう1つが醸造用の乳酸を添え付けて作られる速醸?です。

生?とは、半切り桶に麹と蒸米、そして水を加えて混ぜ合わせ、櫂(かい)と呼ばれる船具を使用してすり潰す「山卸し(?摺り)」を行い、自然界に存在する天然の乳酸を取り込む方法です。
山卸しは昼夜を問わず3時間から4時間毎に行うため、非常に骨の折れる作業となっています。また、山卸しの工程を停止もしくは廃止して製造される酒母を「山廃?」と言います。

生?は室町時代から代々受け継がれている酒母造りであり、硝酸還元菌や乳酸菌などがころころと入れ替わり、増殖と死滅が目まぐるしく、最後に生き残った酵母が凄まじい勢いで繁殖を始めるのです。
しかし、生?は速醸?に比べ、1か月近く眠らせる時間が必要となるため、温度管理やコスト、リスクが高いため、経験を積んだ熟練の職人しか行うことが許されておりません。
ですが、生?を使用した日本酒は多種多様な微生物が織り成す複雑な香りと味わいを持っており、濃厚で芳醇な風味を持つ強いコシのある日本酒となり、日本酒好きな方々から高い評価を得ています。

ですが、麹の酵素によってお米を溶かすことが明らかとなり、さらに山卸しの作業がとても重労働だったため、この工程を取り払い、山卸しを廃止の頭文字を取って「山廃?」が誕生します。現在では、生?といえば、山廃?と言われるほど浸透しており、濃厚で芳醇な風味を持つ日本酒を製造する際に多用されています。

一方、速醸?とは、岸五郎氏によって確立された酒母造りです。岸五郎氏の手によって誕生した速醸?は、今や多くの酒蔵で行われており、酒母の育成期間が14日と非常に短期間であること、リスクが少なく常に安定した品質を得ることが出来ること、そして、育成期間が短いため低コストで行えるという3つのメリットを得ることが出来ます。
速醸?は、酒母を造る際に必要な麹や蒸米、水と共に販売されている純度の高い醸造用の乳酸と酵母を加えて製造します。
速醸?は市場に出回っている90%以上の日本酒の製造に用いられており、スッキリとした爽快感のある淡麗タイプの日本酒となります。

酒母造りでは、生?や速醸?に関わらず、常に蔵子がぴったり付いてこまめに状態を確認しながら櫂入れを行ったり、温度管理を行う必要があります。

良質な?を造る際は3つのポイントが存在します。
1.良質な日本酒酵母が豊富に純正培養されており、雑菌及び野生酵母が一切含有されていないこと。
2.有害な菌の繁殖を抑制させるために必要な乳酸が必要量含有されていること。
3.酵母が正常に発酵を行えるよう生き生きとしていること。

日本酒を製造するにあたり、酒母造りはとても大切なことです。
日本酒を嗜む際は製造工程に目を向け、日本酒の香りや味わいを堪能するのも1つの愉しみとなっておりますので、もし日本酒を飲む機会がありましたら、酒母造りをふと思い出してみてはいかがでしょうか。

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