代々酒蔵に伝わる諺「一麹 二酛 三造り」の三造りにあたる仕込みには、最後の仕上げとなる「発酵」が存在します。
江戸時代の頃に確立された三段仕込みでは、仕込み1日目に全体の1/6の量の原材料をタンクに投入する初添えを行い、2日目に酵母の繁殖を促進させる踊りの工程を経て、3日目に全体の2/6(1/3)の量をタンクに投入する仲添え、4日目には全体の3/6(1/2)の量の原材料を投入する留添えが行われます。
仕込みを行っている間は、常に酵母を空腹状態に保つことで、効率良くアルコールを生成させることが出来ます。
留添えが完了したら、酵母は自身が生成したアルコールによって死滅してしまいます。そして、いよいよ日本酒造りの大詰めとなる発酵が行われます。
日本酒造りの工程「醪の発酵」について
醪の発酵がどのように行われるのか
留添えを終えたその日から醪の発酵が開始され、およそ2週間から1ヶ月の間は温度や湿度を徹底管理し、醪の発酵度合をこまめに確認しならが、日本酒の醸造を行います。
醪は発酵することによって熱を帯びます。そのため、醪の温度を常に低温に保ち、じっくりと時間をかけて発酵させる必要があります。また、吟醸酒などを製造する際は、長期低温発酵という製法が行われ、蔵子たちは常に醪の発酵度合を確認し、完成させたい日本酒を造るために醪の細やかな変化に気を遣っています。
醪の発酵は使用した酵母の種類にもよりますが、タンクの中で様々な変化を表します。
留添えから2、3日経過すると醪の固い表面が下から押し上げられ、数本の泡筋が浮かび上がります。これを「筋泡」と呼びます。
留添えから3、4日経過すると筋泡から白くて軽い泡状のものが醪の表面に広がっているのが分かります。この泡を「水泡」と言います。
その後、醪の糖化が進行すると生成される泡の粘性が強くなり岩のような泡が登場します。この泡を「岩泡」と言います。
醪の発酵が最高潮になると含有されている炭酸ガスの勢いが増すため、岩泡よりも大きく綿密な泡「高泡」が現れます。
高泡が現れると、大量のアルコールの作用によって泡の粘性が弱まり、少しずつ泡が落ち着きを取り戻します。このとき現れる泡を「落泡」または「引泡」と言います。
麹の表面に可愛らしいコロコロとした泡が浮かびます。この泡を「玉泡」と言い、発酵の最終段階に突入します。
完全に発酵が停止すると玉泡がキレイさっぱり消失し、醪の表面が均された状態となります。この状態を「地」と言います。これで醪の発酵工程は終了となります。
仕込みの豆知識
日本酒は他の醸造酒と比べ、発酵後のアルコール度数が非常に高いと言われています。日本酒以外の蒸留前が大体14%と平均よりも高い数値にも関わらず、日本酒は発酵終了時には最大で20%となっています。これは同じ醸造酒であるワインよりも9%高い数値となります。
日本酒の醪に含まれるアルコールが高い理由は、日本酒独特の並行発酵製法や低温発酵、高濃度仕込みなどが要因となっていると考えられています。
日本酒はデンプンを糖分へ分解させる麹と糖分をアルコールへと変換させる酵母の2つの微生物の働きによって同時に発酵を行うことが出来ます。これを並行複発酵製法と呼び、常に酵母が活発に活動できる環境を整えてやることで高アルコール分にすることが可能です。
日本酒は6度から15度という低温で醸造されるため、酵母へのアルコールの働きが緩やかになります。また、お米には発酵を妨害する物質を吸着する働きや麹のプロテオリピッドという脂質タンパク質の作用によってアルコールによって死滅してしまう酵母を強化しています。
仕込みの最終段階である発酵は日本酒にとって、たいへん重要な工程の1つです。
さじ加減1つで大きく香りや味わいが変化するので、細心の注意が必要です。
また、日本酒の種類によって仕込みに使用する一揃いの量や加えるタイミングが異なるので、杜氏の腕の見せ所となっています。