日本酒の造り方|④製麹

日本酒造りの工程「製麹」について

高精白の精米は蒸米工程によって、パラパラした宝石のような美しい半透明なお米へと生まれ変わります。その後、高温になっているお米を広々とした空間に巨大な布が敷かれており、その上に100度近い蒸米を広げます。高温の蒸米の中に蔵子たちは躊躇せず手を入れ、迅速かつ丁寧にほぐしてゆきます。そして、自然の力を借りて粗熱を取り除きます。この工程を「放冷」と呼びます。

放冷を行う場合、蒸米を用途別に分けておき、目的の温度になるまで冷ましたら、次の工程に移行します。

今回はその中の1つ「製麹」についてご説明します。

蒸し米を麹に変える

製麹の必要性

皆さんは「一麹 二もと 三造り」という言葉をご存知ですか?
これは、古来より日本酒を製造する際にとても重要となる工程を表している酒造家に代々伝わる諺です。この諺は、日本酒の製造工程を表すと同時に日本酒の品質に関わる影響度合いを表すものでもあります。

そもそも麹とは、蒸米に「もやし」と呼ばれる種こうじをまぶし、麹菌の本体である菌糸を繁殖させたものです。お米にはフルーツに含有されている糖分が含まれていないため、独自で発酵することが出来ません。ですので、日本酒を造る際は必ずお米の主成分であるデンプンを糖分に変化させる糖化を促す必要があります。そしてこの糖化を行うために必要なのが麹になります。

麹には、デンプンを糖化させるための酵素がたっぷり含有されているので、とても重要な素材の1つとなっています。さらに、麹には酵母の栄養分となるアミノ酸やビタミン類などを生成する作用や日本酒独特の深いコクを引き出すための重要な要となっているため、質の良い麹を如何に製造することが出来るのかがポイントとなります。

製麹とは?

製麹の必要性をご理解頂けたうえで、質の良い日本酒を製造するための工程の1つである「製麹(せいきく)」をご説明します。

製麹は48時間以上かけてじっくり行われます。そのため、製麹を行う際は気を抜くことが出来ません。

製麹の工程は「引き込み」「床もみ」「切り返し」「盛り」「仲仕事」「仕舞仕事」「出麹」の順で行われます。

引き込みとは、35度前後まで放冷された蒸米を麹室(こうじむろ)へ運びます。そして、広げられた布の上に積み上げたら、丁寧に布で覆い、室温及び湿度が徹底管理された室内で蒸米の温度を均一にする工程です。

2時間から3時間ほど寝かせたら、床もみに移行します。
床もみ(とこもみ)とは、布で覆った蒸米が時間経過によって均一の温度になったのを確認し、蒸米を床の上に薄く広げて「もやし」と呼ばれる種こうじ(黄麹菌の胞子)をふるいに乗せて、まんべんなく振りかけます。これを「種付け」または「種切り」と言い、種付けされた蒸米にまんべんなくもやしが付着するように、しっかり揉み混ぜます。この工程を「床もみ」というのですが、床もみが完了したら、もやしが増殖しやすい環境を整えるために、揉み込んだ蒸米を積み上げ、丁寧に布で包み込みます。
このとき、蒸米はホカホカと温かいのですが、この温度を「もみ上げ温度」と言い、今後この温度が麹菌の繁殖速度を支配するために必要となります。

床もみ工程が完了したら、およそ10時間から12時間経過させます。
するとお米同士がくっつき、1つの塊になりますので、これを崩して、再び撹拌させます。
こうすることで、蒸米の水分と温度が等しくなり、麹菌に新鮮な酸素を供給することが出来るのです。この行為を「切り返し」と呼びます。

切り返しの工程が完了したら、10時間ほど寝かせます。
すると、麹菌が正常に繁殖している証である白い斑点が蒸米に現れます。このままの状態にしてしまうと麹菌の増殖による熱によって、蒸米の温度が高温になり、自身の放出する熱によって繁殖が停止してしまう危険性があります。
それを防ぐために「盛り」と呼ばれる工程を行う必要があります。
うずたかく積まれた蒸米を再び揉み解します。そして、30kg毎に箱に入れ、蒸米の温度管理をしやすい環境にします。盛り工程は、今後の麹菌増殖に関する重要な要素ですので、覚えておきましょう。

盛り工程を行ってから7時間から9時間ほど経過すると、箱に詰められた蒸米の温度が35度前後まで上昇するので、蒸米の温度を1度から1.5度低下させるために撹拌します。温度が均等に低下したのを確認したら、蒸米を広げて6cmから7cmの厚みにします。この工程を「仲仕事」と呼びます。

仲仕事完了後、6時間から7時間経過したら、蒸米が37度から39度まで上昇しているかと思います。ですので、仲仕事で行ったように撹拌させ、蒸米の温度を1度から2度低下させます。その後、蒸米を広げてお米の層を作り、表面積を大きくします。そして、蒸米の急激な温度の上昇を抑制しながら水分の蒸発を促進させるのです。この工程を「仕舞仕事」と呼びます。仕舞仕事の段階になったら、麹菌の繁殖をストップさせるため、麹室から出します。

仕舞仕事から8時間から12時間ほど経過したら「出麹」という工程に移ります。
出麹では、蒸米を39度前後まで上昇させ、再び撹拌させます。そして、蒸米を広げて溝を作り、お米に含まれる余分な水分を蒸発させるのです。
一般的な麹の場合、床もみから出麹までに48時間から50時間ほどかかり、掛麹の場合は、43時間から45時間ほどで完了します。

製麹のポイントとは?

製麹では、麹菌の本体である菌糸の繁殖具合を「破精(はぜ)」と呼び、「縦破精型」と「突き破精型」の2つに分けられます。

縦破精型とは、蒸米の表面及び内部にしっかり繁殖するタイプです。主に酒母造りや濃醇型の日本酒を製造する際に用いられます。

突き破精型とは、蒸米の表面に斑点模様として繁殖するが、お米の内部にはしっかり繁殖しているタイプです。主に軽やかで快い淡麗型の日本酒や吟醸酒に用いられます。

製麹工程では、デンプンを分解させるαアミラーゼやグルコアミラーゼ、タンパク質の分解させるアスパラギン酸プロテアーゼや酸性カルボキシペプチダーゼといった酵素の力が不可欠です。また、製造する日本酒によって必要になる酵素も違ってくるので、振りかける麹菌の酒類や量などがとても重要になります。さらに、気温や湿度などの環境によって種付けがうまくいかない場合があるため、製麹工程は杜氏のさじ加減1つで決まるといっても過言ではありません。

今回は日本酒造りで重要な工程である「製麹」をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
製麹を行っている間、蔵子たちは昼夜問わず蒸米の状態を常に目を配る必要があります。それほど日本酒造りにとって製麹が重要だということが分かります。
日本酒を嗜む際は、彼らのことをふと思い出しながら嗜むとより一層日本酒が美味しく感じられるのではないでしょうか。

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