蒸し暑かった夏が過ぎ去り、山肌がほんのりと色付く秋がやってくると、しっかり熟成された日本酒の出荷が始まります。
しかし、日本酒はデンプンを糖化させる麹菌や糖分をアルコールへと変換させる酵母などの活きた微生物たちの働きによって発酵し、製造されるアルコール飲料です。
そのため、同じ原材料及び微生物たちを使用したとしても、微生物たちの活動次第で貯蔵されているタンクによって僅かに香りや味わいが変化します。
ですので、日本酒を出荷する際は、必ず「調合」「割水」をし、納得のゆく日本酒が完成したら、多くの方々に安心かつ安全に飲酒して頂けるよう「火入れ(2度目)」や「瓶詰め」を行ってから出荷されます。
そこで今回は、長期熟成されたタンクに貯蔵されている日本酒がどのような工程を経て、出荷されるのかを分かりやすくご説明したいと思います。
日本酒造りの「調合」から「瓶詰め」までの工程をまとめてご紹介
調合とは?
調合とは、日本酒を出荷する際に全てのタンクに貯蔵されている日本酒の風味を同一にするために必ず味見をし、タンクに貯蔵された全ての日本酒の香り・味わい・水色などが納得のゆく酒質になるように調節する作業のことです。
調合を行うことによって、日本酒を最高の品質で消費者の方々に提供することが出来ます。さらに、タンク毎にバラバラな香りや味わい、水色を均一にするために、貯蔵タンクから日本酒を汲み取り、目標とする酒質になるよう、各タンクの日本酒を配合し、ロット毎の酒質の不揃いを無くします。これを「製造調合」と言います。
製造調合された日本酒は、香りや味わい、水色などの酒質を整えるために活性炭素などを用いて液体内に含まれる不必要な成分を取り除き、滓下げや濾過工程を経て次の工程「割水」へと移行します。
割水とは?
調合を終え、酒質が整えられた日本酒は「割水」という工程へ移行します。
割水とは、別名「加水調整」と言い、調合を終えた原酒に「仕込み水」と呼ばれる水を加え、出荷前にアルコール度数を調節する作業のことです。
貯蔵タンクに入っている日本酒は醪を絞り、何も手を加えていない原酒の状態ですので、アルコール度数が20度と高くなっています。日本酒などのアルコール飲料は平均15%から16%の間が最も飲みやすいと言われており、アルコール度数の低下及び日本酒の香りと味わいの均衡を調整するために水を加える必要があります。
例えば、調合された原酒100Lのアルコール度数が18%だったとします。これをアルコール度数15%にするためには、仕込み水を20L加えなければならないということになります。
中にはラベルに「原酒」と表記された日本酒が販売されているかと思います。その場合、一切仕込み水を加えていないため、アルコール度数も18%以上のものが多く、濃厚で芳醇な風味を持つ日本酒となります。
2度目の火入れとは?
調合及び割水によって、満足の行く香りや味わい、水色を持つ日本酒が完成したら、あとは出荷を行うための最終段階を残すのみとなります。
その最終段階のうちの1つに当たるのが「火入れ」です。
「あれ?貯蔵前にも1度火入れしていなかったっけ?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
日本酒では、1度も火入れを行わない「生酒」・1度だけ火入れを行う「生貯蔵酒」・2度火入れを行う「一般酒」の3種類存在します。
それぞれの日本酒の持つ香味には大きな違いがありますが、それは次回ご紹介させて頂きます。
2度目の火入れ作業ですが、1度目と同様に60度から65度の低温加熱殺菌方法で行われます。また、1度目の火入れと違い、様々な方法で火入れを行うことが出来るようになります。
1度目同様に蛇管やパネルヒーターを用いることも可能ですし、先に瓶詰めを行い、瓶が素ポリ入るほど大きな容器にお湯を注ぎ、湯煎にかけて行う「瓶燗火入れ」やパストクーラーという火入れ及び瓶詰め後に冷却する際に使用するシャワー装置にお湯と冷水が出るように設定し、お湯をかけた後、そのまま冷却することが出来る画期的な機械なども存在します。
瓶燗火入れなど瓶詰めを行った後に火入れを行うと、日本酒の香味が飛とばずに瓶内に留まるため、他の火入れ方法よりも鮮度の高い美味しい日本酒を嗜むことが出来るというメリットがあります。
瓶詰めとは?
調合・割水、そして2度目の火入れを終えた日本酒は、ついに瓶詰め工程に最後の工程となる「瓶詰め」作業に移行します。
2度目の火入れの際に既に瓶詰めが完了している場合もございますが、蛇管などを使用して火入れを行った際は、このタイミングで瓶詰めを行います。
現在では機械によって瓶詰めが行われていますが、最終確認は全て人間の目によって行われます。
瓶詰めされた日本酒は不純物の混入は無いかなど1つ1つチェックされ、問題が無い日本酒だけが出荷されます。
一部の酒蔵では、瓶詰め作業を行う部屋を無菌室にし、厳重に管理された室内で品質及び衛生管理を行っていると言います。
こうして無事に瓶詰めされた日本酒は国内だけではなく、世界各国に輸出され、多くの人々に幸せと笑顔を届けています。
杜氏や蔵子たちの長い長い1年がこうして幕を閉じられるのです。
しかし、彼らには息つく暇がありません。酒造りはその年の7月1日から翌年の6月までの1年を酒造年度と言い、10月に収穫された新米を用いて新酒の醸造が行われます。
杜氏や蔵子たちは次の日本酒造りのために、機材をメンテナンスし、気持ちを一新させ、再び最高の日本酒を造り上げるため、新たな日本酒造りに着手するのです。