関西地方の酒造好適米【京都府&滋賀県】
関西地方に属する京都府と滋賀県は古くから日本酒の醸造が行われています。
滋賀県には県面積の1/6を占める断層湖の琵琶湖があり、さらに東に伊吹山地と鈴鹿山地、西に比良山地と比叡山地が存在する自然豊かな盆地です。古くから近江米の生産も行われており、滋賀県の地酒はまろやかで深い味わいが特徴の清酒となっています。
一方、日本の歴史を肌で感じることが出来る古都・京都府では、府内下全域に蔵元が点在しており、その地域の風土に合わせた様々な日本酒が造られています。京都府で醸造されている日本酒は洗練されたデリケートな味わいが特徴です。
そんな京都府と滋賀県ではオリジナルの酒造好適米を使用した美味しい日本酒があります。
では、京都府と滋賀県で生産されている酒造好適米とは、どのような種類があるのでしょうか。
京都府
祝・五百万石・山田錦(合計3種類)
滋賀県
吟吹雪・玉栄・山田錦・滋賀渡舟6号(合計4種類)
京都府や滋賀県でも山田錦や五百万石は生産されており、人気の高さが窺えます。
今回は京都府と滋賀県で誕生したオリジナルの酒造好適米「祝・吟吹雪・滋賀渡舟6号」についてご紹介したいと思います。
京都府、滋賀県の酒米三種
祝
京都府オリジナルの酒造好適米である祝は、昭和8年に京都府にある農業試験場丹後分場にて在来品種の野条穂から純系分離によって誕生した品種です。昭和8年から昭和21年にかけて奨励品種として制定され、昭和11年にはなんと600ヘクタール以上の生産が行われていました。しかし、終戦後の食糧難の解消のため、生産量の低い祝は一時的に生産中止となり、歴史の影に隠れてしまいました。再び祝が生産されるようになったのは昭和30年頃だと言われています。祝は京都府の丹後地区で盛んに生産が行われていたのですが、耐倒伏性に難があり、分けつが少ないという欠点があったため、昭和49年以降再び姿を消してしまいました。それから数十年経過し、昭和63年に伏見酒造組合が祝の復活を掲げ、育成方法の改良などを重ね、平成2年に農家の方々の協力もあって栽培が本格的に行われるようになり、平成4年には20年の時を超えて再び祝の日本酒が誕生したのです。
祝を100%使用した日本酒を嗜みたいという方は、玉乃光酒造の「玉乃光 純米吟醸 祝100%」がオススメです。京都府産のオリジナル酒造好適米である祝を60%まで磨き、祝本来の端麗な味わいと特徴的な芳香によって自然由来の酸味と旨味が絶妙なハーモニーを奏で、優しい舌触りを演出しています。京ブランドにも認定されており、名前の通りお祝い事にぴったりなお酒として贈り物として購入されることが多い日本酒です。
吟吹雪
山田錦と玉栄の交配種である吟吹雪は、山田錦に見劣りしない優れた酒造適性を有しています。特に吟醸酒の醸造に向いています。
吟吹雪は山田錦と玉栄の良い部分だけを受け継いでおり、千粒量は玉栄に劣るものの、山田錦と遜色なく、心白の発現率も高いのが特徴です。さらに高精白の際はやや割れやすい点が見られますが、40%の精米歩合でも耐えうる忍耐強さとタンパク質の含有量の低さでじわじわと需要が高まっている種類の酒米です。
吟吹雪を100%使用した日本酒を是非飲んでみたいという方は、瀬古酒造の「忍者 特別純米」がオススメです。冬の厳しい寒さのなか、念入りに時間をかけて低温発酵させた原酒を生のまま低温貯蔵した生貯蔵酒です。生らしい新鮮な香りが感じられるのですが、重厚感のあるどっしりとした味わいを有しているので、飲みごたえのある清酒です。忍者のように厳しい修錬を重ねて完成するため、このような名称になったそうです。
滋賀渡舟6号
滋賀県では半世紀前に滋賀渡舟と呼ばれる酒造好適米が生産されていました。滋賀渡舟は滋賀県オリジナルの酒造好適米であり、酒米の王と称される山田錦の親に当たる品種です。滋賀渡舟6号が誕生するまでには様々なドラマがありました。昭和28年に滋賀県に農事試験場(現在の農業技術復興センター)が開設されました。そこで福岡県から取り寄せた渡舟(雄町)を純系分離し、滋賀渡舟2号・滋賀渡舟4号・滋賀渡舟6号・滋賀渡船26号が誕生し、滋賀県の奨励品種として滋賀県の湖南地方を中心に生産されていました。しかし、今では優良品種が続々と誕生しているため、滋賀渡舟は栽培されなくなり、今では文献内に登場する幻の酒米となったのです。しかし、平成15年にJAグリーン近江酒米部会が東近江農業改良普及センターへ渡船を再び作りたいという要望があり、翌年に農業技術復興センターから品種保存していた「滋賀渡船」の籾種を50g譲り受け、多くの人々の知識や経験、技術力によって、文献内の幻の酒米が見事復活を果たしたのです。
滋賀渡船6号を100%使用した日本酒を堪能したいという方は、富田酒造の「七本槍 純米 渡船 77%精米」がオススメです。
滋賀県産の滋賀渡船6号を100%使用しており、77%の精米歩合で醸造された日本酒は、酸味の効いた辛口タイプの食中酒となっています。力強くて不思議な味わいは脂っこい食事との相性が抜群です!
今回は京都府と滋賀県で生産されているオリジナル酒造好適米をご紹介させて頂きましたがいかがでしたでしょうか。
今回は1度歴史の影に消えてしまった酒米2種類と山田錦に劣らず酒造適性を持った酒米の3つでしたが、それぞれの歴史を知ることでより一層お酒が美味しく感じられるのではないでしょうか。