四国地方とは、南海道から紀伊と淡路を除いた阿波・讃岐・伊予・土佐の4国を合わせた総称です。現在は徳島県・香川県・愛媛県・高知県の4県を表します。
四国地方は、これら4つの県に加え、小豆島・大三嶋・大島などといった付随する島々も含まれており、これらの付随する島々を含まない際は四国島または四国本土という名称で表します。
今回は、四国本土で生産されている酒造好適米の種類や品種、特徴をご紹介したいと思います。
四国地方で生産されている酒造好適米をまとめてみました。
徳島県
山田錦(合計1種類)
香川県
雄町・山田錦(合計2種類)
愛媛県
しずく媛・山田錦(合計2種類)
高知県
風鳴子・吟の夢・山田錦(合計3種類)
四国本土でも他県同様「酒米の王」と呼ばれる山田錦の人気が高く、生産量も他の酒造好適米よりも多い傾向にあるようです。
そこで、今回は四国地方でのみ生産されている「しずく媛・風鳴子・吟の夢」の3種類を解説してゆこうと思います。
四国地方の酒米3種+番外編
しずく媛
皆さんは愛媛県の奨励品種である酒造用一般米の松山三井という品種をご存知でしょうか。
松山三井は粒が大きくて心白や腹白が多かったため混米に向かず、早生化傾向であったことが相まって生産量が激減してしまったお米です。心白が発現し、粒のサイズが大きいことそして、タンパク質の含有量がやや低いため酒造適性は高く今では酒造用の掛米として用いられています。
この松山三井の優れた酒造適性を生かし、より大粒で心白発現率をより高くした種類の酒米を誕生させるべく、1999年に松山三井をカルス培養し、再分化個体を作り出して、その中から大粒で心白の発現が良い品種を選抜し、5年の歳月をかけて誕生した品種がしずく媛です。簡単にまとめますと、松山三井をカルス培養し、突然変異を起こさせ、その中から優秀な個体を選抜し、より優れた性質を持つ酒米の開発に成功させたのです。
松山三井よりもやや長稈なのですが、耐倒伏性は松山三井と変わらず、収量や葉いもち病への耐性はやや低めとなっています。しかし、目標としていた粒のサイズや心白発現率の高さをクリアしており、さらに吸水の良さと菌糸の伸びの良さによって質の良い麹を造り出すことが可能となりました。
しずく媛を100%使用した日本酒を飲んでみたいという方は、八木酒造部の「山丹正宗 しずく媛 純米吟醸」がオススメです。愛媛県初のオリジナル酒造好適米であるしずく媛を100%使用し、精米歩合50%で醸造した愛媛県の地酒は、愛媛県らしい穏和で柔和なのんびりとした味わいを持つ清酒となっています。フルーティーな香りが感じられ、柔らかく優しい舌触りのお酒ですので、アルコール度数は16度と高めですが、女性の方に是非オススメしたい日本酒です。ボトルもラベルも可愛らしいデザインですので、お酒好きの方への贈り物としても最適です。
ここで1つ豆知識をご紹介します。現在しずく媛は愛媛県の統一ブランドとなっており、しずく媛を100%使用した純米造りであること・精米歩合は60%以下であることが条件となっています。そのため、しずく媛を使用した日本酒はラベルのデザインもほぼ統一されています。ですが、各酒蔵によってデザインのキュート感や清酒の香り、味わいが異なりますので、是非飲み比べてみてはいかがでしょうか。
風鳴子
今まで高知県では、日本酒造りに欠かせない酒造好適米のおよそ95%を他県から仕入れていたのですが、日本各地で地酒ブームが巻き起こると、高知県でも県内オリジナルの酒造好適米を用いた日本酒造りを行いたいという要望が強まり、早造り専用の酒造好適米の開発を始め、露葉風と一本〆を交配させ誕生した品種が風鳴子です。2002年より生産が開始されたのですが、生産量や千粒重、タンパク質の含有量などにばらつきがみられ、酒造適性に難ありという結果になってしまいました。その後、風鳴子の研究が行われ、遂に栽培方法を確立させることに成功し、酒造適性を安定させることが可能となりました。
風鳴子の特徴は、粒が大きくて雑味の要因となるタンパク質の含有量が低いことです。
しかし、心白の発現率は良好なのですが、やや心白が大きいため精米上限は55%前後が限界となっています。
風鳴子を100%使用した日本酒を嗜みたいという方は、亀泉酒造の「亀泉 純米吟醸生原酒 高育63号」がオススメです。風鳴子で醸造された日本酒は淡麗辛口タイプとなります。
ですが、ふわりと薫る吟醸香はフルーツのような華やかで甘めの香りですので、香りと味のギャップに初めは驚かれる方もいらっしゃいます。
程良い酸味と風鳴子の持つボリューミーなお米の味わいは何杯飲んでも飽きさせない個性溢れる清酒です。高知県は古くから酒豪の国として知られており、幕末の志士・坂本龍馬も土佐の地酒をこよなく愛したと言われており、偉人の心をも虜にした高知県独特の香りと味わいを持つ土佐の酒を是非この機会に味わってみてはいかがでしょうか。
吟の夢
吟の夢は、平成元年に高知県南国市にある農業技術センターにて、「酒米の王」と称される山田錦と飯用一般米のヒノヒカリを交配させ、葯培養及び染色体倍化によって、山田錦の欠点を克服した高知県オリジナルの酒造好適米の開発を目的として誕生した品種です。
吟の夢は山田錦よりも短稈であるため、耐倒伏性はやや高いのですが、山田錦よりも千粒重が若干小さめとなっています。しかし、心白の発現率は良く、腹白は極めて少ないという特徴があります。また、心白が小さいので高精白に耐えることができ、さらに山田錦よりもタンパク質の含有量が低いので雑味の少ないので淡麗で辛口タイプの日本酒を醸すことが出来ます。
吟の夢を100%使用した日本酒を飲みたいという方は、仙頭酒造の「土佐しらぎく 涼み純米吟醸 吟の夢」がオススメです。オレンジやレモンといった柑橘系のフルーツのような清々しい吟醸香を感じながら、口の中に広がる優しくて清らかで爽やかなあっさりした味わいが特徴の日本酒です。しつこさや嫌味がないので、うだるような暑い夏の季節にぴったりな1杯です。夏季限定となっておりますので、購入をご検討の方はご注意ください。
夏野菜との相性も良いので、夏野菜を肴にグラスに氷を浮かべてクイッと一杯嗜むのがオススメです。
【番外編】土佐錦
高知県では、飯用一般米のアキツホを掛米として用いることが多いのですが、酒造適性を持った酒造用一般米の開発を行ってほしいという要望があり、中国55号と中系419を交配させ土佐錦を開発しました。土佐錦は粒が大きく、優れた吸水性を有しており、粗タンパク質の含有量が低いのが特徴です。そのため、古くから土佐で愛されている淡麗の辛口タイプの清酒を醸造することが可能となりました。
今回は四国地方で生産されているオリジナル酒造好適米をご紹介させて頂きました。
四国地方では古くから日本酒造りが行われており、数々の偉人たちを虜にしてきました。是非、彼らの愛した地酒を飲んで、ゆったりとした時間を愉しんでみてはいかがでしょうか。