東北地方の酒造好適米をご紹介【山形県】
東北地方の南西部に位置する山形県は、隣接する新潟県と秋田県と同じく日本海側気候の影響によって酒造りに適した風土を有しています。ですが、やはり山形県といえばサクランボや西洋梨、ブドウなどの果樹栽培が盛んに行われているイメージが強く、山形県=日本酒という印象は低いようです。
実は果樹大国として知られる山形県ですが、お米の生産量は県別順位で第5位であり、米処として有名な新潟県と共に東北地方の米産業を支えているのです。
そんな山形県では、オリジナルの酒造好適米も豊富に生産されており、その数なんと13種類にのぼります。そこで、今回は山形県の酒造好適米を全てご紹介したいと思います。
山形県で生産されている酒造好適米をご紹介
山形県では、羽州誉・改良信交・亀粋・京の華・五百万石・酒未来・龍の落とし子・出羽燦々・出羽の里・豊国・美山錦・山酒4号・山田錦の合計13種類の酒造好適米が生産されています。
やはり山形県でも山田錦や五百万石、美山錦の3品種は栽培されています。では、山形県オリジナルの10品種をご紹介したいと思います。
改良信交
改良信交とは、別名「農家中瀬の酒米」と言われており、非常に栽培が難しいことで知られています。平成元年まで山形県唯一の酒造好適米として生産されてきた改良信交は信交190号(別名:たかね錦)を改良したことで誕生した酒米なので、このような名称となっています。この信交190号は交配する父方と母方双方の系統に亀ノ尾が含まれているため、改良信交は亀ノ尾の遺伝子が色濃く現れている種類の酒米です。生産量が少ない品種ですので、改良信交を100%使用した日本酒は「幻の酒」と呼ばれています。
そんな改良信交を是非とも味わいたいという方は、山形県産の改良信交100%使用した和田酒造の「あら玉 改良信交 しぼりたて 特別純米生原酒【季節限定】」がお勧めです。
立香は控えめながらも、ふわりと漂うお米の甘い香りが印象的なこの清酒は、滑らかで飲みやすい日本酒なのですが、しっかりとしたお米のコクや旨味が感じられ、さらにキレの良さが魅力的な逸品です。そのため、日本酒を初めて嗜む方でもスルスルと飲酒出来るので、是非一生に一度は飲んで頂きたい清酒の1つです。
出羽燦々
出羽燦々は、山形県農業試験場で誕生した山形県のオリジナル酒造好適米です。現在では、山形県だけではなく、新潟県でも栽培が行われており、柔らかくてキレのある味わいが特徴の日本酒を醸造することが出来ます。
出羽燦々を使用した純米吟醸酒は「DEWA33」という認定証が貼られています。これは純正山形県酒審査委員会の認定証であり、厳しい審査を通った日本酒のみに与えられる称号なのです。
出羽燦々を100%使用した日本酒を飲みたい方は、「DEWA33」の称号を与えられているものを購入するとまず失敗がございません。ですが、なかなか見つけられないという方は、出羽桜酒造株式会社の「出羽燦々 誕生記念(本生)」がオススメです。山形県が11年の歳月をかけて生み出した酒造好適米をたっぷり使用した「出羽燦々 誕生記念(本生)」は、幅のある柔らかくて円やかな香りと味わいを持つ清酒となっています。
出羽の里
出羽の里は、美山錦や出羽燦々が誕生した後に生まれた山形県のオリジナル酒造好適米です。山田錦の血統に属する吟吹雪と美山錦の血統に属する出羽燦々を交配させて誕生したのが出羽の里です。
非常に日本酒造りに適した酒米となっており、心白がとても大きく、比較的安価で高品質な日本酒が醸造出来ることから人気の高い酒造好適米となっています。出羽の里はなんと精米歩合70%で日本酒本来の旨味やコクを感じることが出来るため、山形県では出羽の里を原材料とした日本酒を製造している23の蔵元が山形セレクションに認定されています。
出羽の里を100%楽しみたい方は、東北銘醸株式会社の「初孫 純米 出羽の里 生詰原酒 限定品」がオススメです。出羽の里は心白の発現が高く、サイズが大きいため精米歩合が高いとお米が粉砕してしまうという難点があります。それを独自の技術で克服し、なんと出羽の里を55%まで磨き上げで醸造したのが「初孫 純米 出羽の里 生詰原酒 限定品」です。今年の初孫は昨年に比べて甘さが控えめでスッキリとした味わいが楽しめるようになっており、日本酒が苦手な方でも美味しく嗜むことが可能です。また、マスカットや完熟したメロンのようなジューシーで濃厚な甘みが口に広がり、鼻からスーッと抜けてゆきます。
原酒なのにこの旨さはまさに逸品と呼ぶにふさわしい日本酒ではないでしょうか。
羽州誉
羽州誉とは、山形県にある高木酒造の高木辰五郎氏によって18年という歳月をかけて誕生した山形県オリジナルの酒造好適米です。羽州誉は美山錦と玉龍F10の交配品種であり、短い稈のため耐倒性に優れており、米粒が大きくて円盤状の心白が見られます。
羽州誉を100%使用した日本酒を飲んでみたいという方は、澄川酒造場の「東洋美人 羽州誉 純米吟醸」がオススメです。羽州誉の持つ旨味を最大限引き出しており、芯のあるがっしりとした味わいが楽しめます。
亀粋
亀粋とは、山形県や新潟県を中心に栽培が行われている幻の酒米「亀ノ尾」の変異種です。米鶴酒造では、亀ノ尾をより酒造りに適した品種にするために志賀良弘氏と米鶴酒造が力を合わせてより優れた品質を持った亀ノ尾を誕生させることを目的に研究を行っていました。その際、1983年に志賀良弘氏が偶然にも変異を起こしていた株を発見し、その中から優良種を抜粋及び育成をはじめ、1993年に品種登録が行われました。
亀粋を100%味わいたいという方は、亀粋の生みの親である米鶴酒造の「米鶴 米の力 純米 亀粋」もしくは「米鶴 純米大吟醸 亀粋」がお勧めです。スッキリとした清々しい味わいが特徴的な「純米 亀粋」とぽってりとした豊かな香りと柔らかい味わいが楽しめる「純米大吟醸 亀粋」はどちらも1度は味わって頂きたい日本酒です。特に日本酒を初めて嗜む方は「純米 亀粋」から嗜むと良いでしょう。
京の華
名高い育種家の工藤吉郎兵衛翁が創りだしたと言われる酒造好適米が京の華です。
幻の酒米として有名な亀ノ尾の直系に当たる酒の華と新山田穂という兵庫県の酒米を交配させて誕生した種類のお米です。山形県の庄内平野で誕生し、山形県オリジナルの酒米として栽培が行われていたのですが、福島県の会津地方の風土と相性が良く、山形県のみならず福島県でも生産されていました。しかし、1950年頃から京の華の生産量が激減し、大量生産が出来る品種の酒米が栽培されるようになり、京の華は幻の酒米となったのです。
その後、京の華を復活させたいと願っていた新城新次氏は1980年に福島県農業試験場に僅かばかり残っていた京の華を再び酒米として使用するために試行錯誤を繰り返し、1984年に見事京の華を復活させることが出来たのです。
現在京の華を100%使用した日本酒を飲みたいという方は、合資会社辰泉酒造の「純米大吟醸 京の華」がオススメです。爽やかなフルーティーな香りとスッキリとした清々しい飲み口は1度飲んだら虜になります。また、お米の深いコクが感じられるため、まろやかな味わいを持っており、トロっとした余韻が口に残ります。
酒未来
山形県のオリジナル酒造好適米「酒未来」は、高木酒造の高木辰五郎氏によって誕生した酒米です。酒未来は「酒米の王様」として知られる山田錦の血統をしっかりと受け継いでおり、山形4号と美山錦を交配させ、18年という長い歳月をかけて生まれました。その芳醇な香りは酒質評価特Aを獲得するほどであり、非常に日本酒造りに適した酒造好適米として認知されています。
酒未来を100%使用した日本酒を味わってみたいという方は、亀の井酒造の「くどき上手 酒未来 純米吟醸」がオススメです。こちらはくどき上手の春の限定酒として、非常に人気の高い日本酒です。山形県村山産の酒未来を100%使用しており、精米歩合を50%にし、醸造されるため、芳醇な香りと優雅で花のような吟醸香が印象的です。ふっくらとした軽やかで甘めな味わいは多くの女性を虜にしています。爽やかで清々しい日本酒ですので、是非1度飲酒してみてはいかがでしょうか。
豊国
福島県にある酒造メーカーと勘違いされがちですが、今回ご紹介しますのは、1903年に山形県の桧山幸吉氏が立派に育て上げた「豊国」という種類の酒造好適米です。
米粒が大きくて酒造りに非常に適していたため、当時は豊国の争奪戦が行われていたほど非常に人気の高かった酒米でした。しかし、時代が移り変わるにつれ、豊国の生産が行われなくなり、いつしか幻の酒米として扱われるようになったのです。
そんなとき、かつて寒河江の特産酒米であった豊国を復活させ、豊国100%の日本酒をもう一度造ろうという住民たちの願いもあって、ついに豊国は山形県の酒造好適米として再び復活を果たしたのです。
そんな豊国を100%使用した日本酒を醸造しているのが、千代寿屋酒造合資会社です。「千代寿 豊国 純米生原酒」は特別純米生原酒でありますが、気品溢れる香りと優しい酸味がじっとりとした暑さを忘れさせてくれるほどの爽やかさを持っています。しかもお米の甘みや旨味をしっかり感じることができ、瑞々しくてフレッシュな原酒ですので、初めての方でも安心して飲むことが出来るのが魅力的です。復活させるために20年の歳月がかかった豊国の味を是非1度堪能してみてはいかがでしょうか。
山酒4号
山酒4号は山形県立村山農業高校で誕生した山形県を代表する酒造好適米です。山酒4号は山田錦と金紋錦の交配種であり、程よい柔らかさを持っており、醸造するとどっしりとした風味を演出することが出来ます。
山酒4号を100%使用した日本酒を嗜みたいという方は、朝日川酒造の「山吹極 生もと純米無濾過原酒」がオススメです。こちらの日本酒は日本酒上級者向けの食中酒となっており、個性が強く、万人受けしない清酒ですので初心者の方にはオススメ出来かねます。
口に入れた瞬間は柔らかいのですが、その中に個性的な太い味わいが感じられます。吟醸酒などにみられる華やかな吟醸香や爽快感のある味わいは一切ありませんので、日本酒本来の味わいをダイレクトに感じることが出来ます。
もちろん朝日川酒造では、山酒4号を使用した中級者向けの日本酒や万人向けの日本酒も販売しているので、興味のある方は是非そちらを購入してみてはいかがでしょうか。
龍の落とし子
高木酒造といえば、地元の山形県では「朝日鷹」という銘柄で有名な酒蔵ですが、多くの日本酒ファンを唸らせてきた「十四代」という銘酒は老若男女問わず非常に人気が高く、今では日本国内でその名を知らない人はいないのではないでしょうか。
そんな高木酒造では自社開発米の龍の落とし子を使用した日本酒が醸造されています。龍の落とし子は美山錦と山酒4号の交配品種であり、この酒造好適米を使用した日本酒は高木酒造でしか味わうことが出来ません。
龍の落とし子を100%使用した日本酒を嗜んでみたいという方は、高木酒造の「十四代 龍の落とし子」を購入しましょう。精米歩合50%の純米吟醸酒のため、芳醇な香りとコッテリとした濃い味わいが楽しめます。通常お目にかかることが出来ないため、購入するのが非常に難しい日本酒となっています。生詰ですので、龍の落とし子本来の香りと味わいを堪能することが出来ます。
これで東北地方6県、全てのエリアで生産されている酒造好適米をご紹介しましたが、いかがでしたか?
2015年現在はこれらの酒造好適米が主力となっていますが、今後5年、10年と歳を重ねてゆく毎にまた新しい酒米が誕生することでしょう。是非、今後の東北地方の酒米情報はチェックし、皆様にお伝えしてゆきたいと思います。