日本酒の造り方|③蒸米

日本酒の造り方の工程「蒸米」について

洗米及び浸漬工程を経た精米は次の工程「蒸米」に移ります。
蒸米は日本酒の仕込みが開始される時期の早朝から行われる作業です。

蒸米の工程は日本酒造りの要となる重要な部分でもあり、この工程が日本酒の酒質を大きく左右するといっても過言ではありません。そのため、杜氏のもとで働く蔵子の方々は米の蒸し具合に神経を集中させ、蒸し具合をこまめに確認しながら作業を行います。

では、蒸米工程とはどのような作業なのでしょうか。

なぜ精米を「炊く」ではなく「蒸す」のか

蒸米とは?

私たちが普段口にしているご飯は洗米後、適量の水を注いで炊飯器や土鍋などを用いて「炊ぐ(かしぐ)」ものですが、日本酒の世界ではお米を「蒸かす(ふかす)」ことで質の良い清酒を生産しています。

炊ぐとは、お米や麦などを煮るもしくは蒸して飯とする行為ですが、蒸かすとは、高い温度の乾燥した湯気を通して熱する行為となります。

では、なぜ精米を炊ぐのではなく蒸かすのでしょうか。
その理由は、お米に含有されているデンプンを糊状にさせる「糊化(通称:α化)」させるためです。

お米の主成分は、アミロースとアミロペクチンの集合体である無味無臭の白色結晶であるデンプンです。デンプンは葉緑素を有する植物の炭素固定によって生成され、栄養貯蔵物質と呼ばれています。動物にとっては必要不可欠な栄養素の1つでもあります。
デンプンは水分と熱によって解き解され、徐々に膨張し、強い粘性を有する糊となります。これを糊化と言い、糊化させる前の生のデンプンを「βデンプン」、水分と熱の作用によって糊化したデンプンを「αデンプン」と言います。

βデンプンは不溶性であり、消化されにくいという性質を持っており、αデンプンに変換されると消化しやすい性質を持ったデンプンへと変化します。しかし、αデンプンは冷めてしまうとβデンプンに戻ってしまうため、再びαデンプンに戻す際は加熱させる必要があります。

デンプンがα化するためには、精米重量のおよそ30%の水分と熱量が必要となります。
例えば、デンプンが77%含有された精米に含有された水分量が15%ほどだったとします。この精米をα化させるためには、炊ぐ前に精米を水に漬け込み、熱を加える際もお米1粒1粒に水分を浸透させる必要があります。
しかし、糯米などは粳米よりも吸収率が高いため、同量の水分を使用してしまうと柔らかくなり過ぎてしまいます。

酒質の良い日本酒を造る場合、必ずお米をα化する必要があります。α化されたお米はこの後の工程で登場する麹菌による糖化作用をスムーズに行うために必要なことなのです。
デンプンは蒸かされることによってほぐされ、隙間が出来ます。隙間が出来ると麹菌が活動しやすい環境を整えてやるのです。

蒸米で重要なこととは?

磨き上げられた精米を乾燥した高温の蒸気で蒸かす蒸米工程ですが、蒸かし時間や不可視具合は日本酒の香りや味わいを大きく左右するため、蔵子の方々はこまめにお米の状態を確認しつつ作業を行います。

蒸米を行う際は必ず「甑(こしき)」という道具が必要になります。
甑とは、巨大な釜の上部に乗せるための穴の開いた桶型の器具です。甑は弥生時代の頃から存在すると言われています。甑の底には、湯気を通す数か所の小穴が開いており、湯釜の上部に設置して使用します。
しかし、100度近いお米を甑から取り出し、運んで広げ、冷却作業を行うのは非常に重労働だということで、現在では蔵子の負担を少しでも軽減させるために、精米を蒸かす工程から冷却まで一気に行える連続式蒸米機や仕込み専用の蒸米を仕込みタンクへ運搬させるエアシューターを使用している酒蔵も多く存在します。

蒸米工程で忘れてはいけないのが、蒸かし具合です。
美味しい日本酒を製造するならば、「外硬内軟(がいこうないなん)」に蒸米を造らなくてはなりません。
外硬内軟とは、1粒1粒の米粒の外部が硬く、内部はふっくらと柔らかな状態の精米のことで、今後行われる糖化や発酵、醪造りなどでお米が液状になるのを防ぐために表面は硬く、麹菌の菌糸が柔らかい内部に向かって伸び、しっかりと根付くようにさせるにはこの蒸かし具合がベストとなっています。

また、蒸かし時間は使用するお米の品種や精米歩合、環境などによって蒸気の圧力や蒸かし時間を微調節する必要があります。デンプンがα化するまでの時間は、およそ40分から60分ですので、蔵子たちはこまめに精米の状態を確認しながら作業を行います。

蒸米工程は、日本酒の香りや味わいを大きく左右する重要な作業の1つです。また、乾燥した高温の蒸気で蒸かすことによって殺菌効果も得られるため今後の日本酒造りを安全に進めるようになります。
また、蒸米工程が完了したお米は、麹造りや酒母造り、掛米用と様々な用途に使用されるため、用途に合わせて放冷し、次の工程に進みます。

今回は、日本酒の重要な工程「蒸米」についてご説明させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか。次は麹菌の繁殖を行う「製麹」についてご説明したいと思います。

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